先日のエントリでEPUB3とDAISY4との関係について少し触れましたが、もう少し詳しく整理してみたいと思います。
ここで私がまとめるEPUB3とDAISY4の関係については、現在、策定中の話であり、現時点での話になります。今後、変更される可能性があることはご承知ください。また、あくまで私の理解であり、私の理解が根本的に間違っている可能性もございます。その点もご注意ください。
■DAISY(Digital Accessible Information SYstem)について
DAISY(Digital Accessible Information SYstem)はデジタル録音図書の国際標準規格です。このフォーマットがどういうものかについて一からは説明いたしませんが、エンジョイ・ディジーに掲載されている以下のパンフレットがわかりやすいと思いますのでこちらを参照してください。
現在のDAISYは以下の3つのタイプが存在します。
- テキストDAISY(テキストのみ)
- DAISY録音図書(音声のみ)
- マルチメディアDAISY(テキスト+音声)
現行のDAISYは配布フォーマットと交換フォーマットを兼ねるフォーマットであったため、それぞれ別々につくる必要がありました。
One Souce, Multi Use
を実現するため、
※2011/02/24 追記
上の点につきまして私の現行のDAISYに対する認識が誤っておりました(DAISYコンソーシアム会長の河村宏にその点につきましてコメント欄にてご指摘いただきました)。
詳しくは河村氏のコメントをご覧いただきたいのですが、現行のDAISYにおいても、マルチメディアDAISY(テキスト+音声)はテキストDAISY(テキストのみ)的な利用やDAISY録音図書(音声のみ)的な利用が可能であること、そして、マルチメディアDAISY(テキスト+音声)からテキストDAISY(テキストのみ)とDAISY録音図書(音声のみ)を生成することが可能だそうです。つまり、マルチメディアDAISYは配布フォーマットではあるが、交換フォーマット的な役割も果たしているということになります。現行のDAISYにおいても”One Souce, Multi Use“はすでに実現していることになります。
–追記ここまで–
現在、策定中の次のバージョンとなるDAISY4では One Souce(交換フォーマット:DAISY制作者用フォーマット)とMulti Use(配布フォーマット(配信フォーマット): DAISYユーザーが読書に利用するフォーマット)が分けて別々に開発されることになっています。
つまり、以下の図のようなイメージになるのかと思います。
※以下の図は交換フォーマットと配布フォーマット(配信フォーマット)の関係をわかりやすく見せるするためにいろいろなものを省略化したイメージ図ですので、ご注意ください。DAISYファイルはテキストや音声、動画の他に様々なファイルから構成されています。

図1. DAISY4における交換フォーマットと配布フォーマット(配信フォーマット)の関係(イメージ図)
交換フォーマットは”DAISY AI”もしくは、”ZedAI(”Z39.86 Authoring and Interchange Framework”の略)“と呼ばれ、2011年1月に仕様草案が公開されています。
では、DAISY4の配布フォーマットはどうなのだろうというあたりから、EPUBが関係してきます。
■DAISY4の配布フォーマット≒EPUB3
配布フォーマットはどうなのだろうかという点について、TwitterでDAISYコンソーシアム会長の河村宏さんに伺ってみました。それをまとめたものが以下になります。
・Togetter – 「DAISY4とEPUB3の関係についてDAISYコンソーシアム会長の河村宏(@hkawa33)氏に伺ってみました。」
重要なところを抜粋すると以下になります。
@kzakza 2月14日に公表されるEPUB3の公式の案を見ないと確定的なことは言えませんが、DAISY側はコンテンツ製作はDAISY4-AIとして開発し、配布用のフォーマットを用途に応じてEPUB3、PDF、点字PBF等を選べる予定です。 #dtxt #epub_egls
@kzakza EPUB3が音声や動画を含むかが未定の時点では、音声の入らないタイプのDAISY4はEPUB3と一致させたいと思っていました。しかしEPUB3がリッチメディアに対応することになり、すべてのDAISY4タイプをEPUB3がカバーできるようになりました。(続く
@kzakza EPUB3がリッチメディアコンテンツをサポートし、DAISY4がこれまで開発してきたSMIL3をベースにした同期技術が基本的にEPUB3で使える見通しがついた時点で、DAISYは配信フォーマットを独自に開発することはやめて開発資源をEPUB3に集中しました。
@kzakza (続き)従ってDAISY4配信フォーマットというものをDAISYコンソーシアムは今開発していませんし、EPUB3がDAISY4の機能を極力カバーするように、DAISYの開発スタッフはEPUBの開発に参加しています。 #dtxt #DiTT #epub_egls
@kzakza DAISY4のマークアップをしたソースからは、EPUB3の1動画を含むマルチメディア2静止画、テキスト、音声3テキスト、静止画4音声の4タイプのDAISYが出力できますが、そのほかに自動変換でPDFや点字を出力することもできるように開発を進めます。
つまり
DAISY4の配布フォーマットしての主要な要件をEPUB3がほぼ満たす見込みになったことから、DAISYコンソーシアムはDAISY独自の配布フォーマット(配信フォーマット)の開発をやめ、EPUB3の仕様策定とDAISYの交換フォーマットDAISY-AIの開発に力を集中することになった。
ということだそうです。
確かに私が気がつく範囲でも、EPUB3で以下のようなDAISYに関係ありそうな機能が新たにサポートされるようになりました。現行のDAISYに近いことができるように思えます。
- 動画・音声ファイルのサポート
- SMIL3.0のサブセットが仕様に組み込まれ、テキストと同期した形で音声を再生することができるようになった。
- ナビゲーションが大幅に強化された。
- MathMLのサポート
- Text-to-speechのサポート(CSS3 Speech Module、インラインSSML、PLS(Pronunciation Lexicon Specification)
- HTML5(XHTML5)マークアップでよりセマンティクに。
ただし、
DAISYの配布フォーマット(配信フォーマット) = EPUB3ではありません。EPUB3はDAISY4の配布フォーマット(配信フォーマット)の一つです。DAISYの交換フォーマットDAISY-AIからはEPUB3、PDF、点字ファイルをDAISYの配布フォーマット(配信フォーマット)として生成することが可能になるようです。
以下のようなイメージになるのでしょうか。

図2. DAISY AI(DAISY4交換フォーマット)からEPUB3、PDFなどの配布フォーマット(配信フォーマット)を生成(イメージ図)
すでに DAISYコンソーシアムのニューズレター” The DAISY Planet”の2010年11月号と12月でも紹介されておりました(気づけ!俺!!)。
・DAISY = Accessibility, Will EPUB3 = Accessibility? | The DAISY Planet: DAISY Consortium Newsletter, November 2010
・DAISY 4/EPUB3: What Does It All Mean? | The DAISY Planet: DAISY Consortium Newsletter, December 2010
では、EPUB3がDAISYの配布フォーマット(配信フォーマット) の一つであるとして、逆にEPUB3側からみた場合、全てのEPUB3がそのままDAISYの配布フォーマット(配信フォーマット) とイコールになるのか、というとそうではないようです。上で紹介したDAISYコンソーシアムのニューズレター” The DAISY Planet”で以下のように言及されています。
Not All EPUB3 Will Be Equal
In EPUB3 ‘audio only’, ‘text only’ and ‘audio & text’ will be supported. In addition, EPUB3 will support video. ‘Audio only’ books will contain the structure of the publication as is the case with current DAISY ‘audio only’ productions. However, there will also be several ‘varieties’ of EPUB3 output, and not all will necessarily be equally accessible. The DAISY Consortium will advocate for EPUB3 content which has the features and functions necessary to make the document fully accessible. One of these features is of course the Navigation Control Center (NCX in DAISY 3 and DAISY 4, NCC in DAISY 2.02).
DAISY-AI以外の様々なルートでEPUB3が作成されると考えられ、全てのEPUBファイルがDAISYとして利用できるアクセシブルなEPUBになるとは残念ながら言えないでしょう。
イメージとしては以下のような感じになるのでしょうか。

DAISY4の交換フォーマットであるDAISY-AIから生成したEPUB3がDAISYとして利用できることは当然として、それ以外のEPUB3がどこまでDAISYとして利用できるようになるのか、非常に興味深いところです。
・通常のEPUBリーダーがDAISYリーダーとしても(完全ではないにしても)使えるようになるのかもしれない。
・DAISY-AIから生成したEPUB3ではないEPUB3でもそこそこのアクセシブルであればテキストDAISYとして使うことができるかもしれない。
ということであれば、DAISYとして利用できるコンテンツも大幅に増加し、DAISYを利用するためのハードルが大幅に下がることになります。読書ができないのは視覚障害者だけではありません。高齢のために視力が衰えて好きだった読書ができなくなったという話は誰にでもあり得る話ですし、当然、自分がそうなってしまう可能性もありえます。
書籍がDAISY並にアクセシブルであることが特別なものでなくなり、目次やページ数のように当たり前に備わるようになるとしたら非常にわくわくしますね。
最後に少し古いものになりますが、以下の記事も参考になりますので紹介します。
大変よくまとめていただいております。ありがとうございます。
若干補足があります。現実には配布フォーマットにフルテキストと音声および画像をシンクロしたいわゆるマルチメディアDAISYを作っておくと、そのまま提供すれば自動的にフォールバックが行われて、音声と目次、テキストと目次、そしてマルチメディアの3種類の再生に対応します。これをもってワンソース・マルチユースと呼んでいる人もいます。この配布の問題点は点字のみで読む人です。テキストだけで済めば1メガバイトもいらないのに、100メガバイトにも及ぶ音声ファイルもダウンロードさせられるのは煩わしいという人がいるかもしれません。でも、DolphinPublisher等のオーサリングツールで音声ファイルを削除すればよいので、テキストだけのDAISYはマルチメディアから自動生成できます。
動画シンクロはSMILオーバーレイの機能になります。EPUB3でもできると思いますが、実際作ってみないと確認できません。SMIL3.0完成には私も参加して4年かかりましたが、DAISYに動画をシンクロさせるために日本の浦河に開発者を集めてUrakawa Projectという災害時の障害者等の安全確保を要件とするアクセシブルなマルチメディア開発プロジェクトを立ち上げ、そのユースケースを満たす目標を掲げました。今でもDAISYコンソーシアムWebにはUrakawa SDKの記載があります。これは、SMIL3.0のDAISYプロファイルに活かされ、そして今DAISY4=EPUB3としてろう者と知的障害者そして言語的コミュニケーションが難しい外国人旅行者などへの防災コンテンツに活かされようとしています。6月にはITUのアジア太平洋地域Forumで私にDAISYと防災というテーマでの発表依頼があり、知識基盤の標準をアクセシブルにするアプローチが国際的な課題解決に役立つという事例を示すことによって、高齢者・障害者の人権だけでなく、AIDSや鳥インフルあるいは環境問題についてもIT産業と出版および図書館がコラボして大きな役割を果たせることを示唆したいと思っているところです。
また、新しくインストールなしでDAISYが再生できるEasyReaderをつけたコンテンツが下記からダウンロードできますので、よろしければお試しください。http://p.tl/iPMw
今後ともよろしく。
河村
河村様
長いエントリにも関わらず、ご確認いただきましてまことにありがとうございます。「よくまとまっている」とのお言葉を頂き、とても嬉しく思います。ご指摘いただいた以下の2点についてですが
(1)One Souce, Mulit USeの部分につきまして
現行のDAISYにおいてもすでにOne Souce, Mulit Useが実現しているとのご指摘ありがとうございます。私の認識間違いでございましたのでこの箇所につきましてはエントリを修正いたします。
(2)EPUB3の動画シンクロについて
”EPUB Media Overlays 3.0″のIntroductionにおいて、”Although future versions of this specification may incorporate support for video media (e.g., synchronized text/sign-language books), this version supports only text and audio media.”という記述があり、オーディオのみのサポートという解釈をさせていただいたのですが、このように仕様をあまり深く読んだ経験が経験があまりなく、私の解釈にあまり自信があるというわけではございません。
http://idpf.org/epub/30/spec/epub30-mediaoverlays.html#sec-media-overlays-introduction
EPUB3にDAISYのアクセシビリティが備わるということに非常にワクワクしております。まだまだ勉強不足でいたらぬ点があるかと思いますが、またご教授いただけると幸いです。
今後ともよろしくお願い申し上げます。
DAISYコンソーシアムにおいては、DAISY4-AIはPipeline2というコンバーターと共に開発されています。Pipeline2の主要な出力先がEPUB3ですが、他に点字ファイルやタグ付きのアクセシブルなPDFも考えられています。実際にBookshareという米国のDAISYコンソーシアムメンバーは、連邦政府が運営するNIMACと呼ばれる教科書のdtbook(DAISY3形式のXML)ファイルのデータベースからファイルをダウンロードして、テキストだけのDAISY図書と点字端末で読むための点字図書の両方を利用者に提供しています。DAISY4-AIから利用者に渡すDAISY4図書がEPUB3だけに限られないと言う点がDAISYを開発してきた私たち自身にとっても新しい経験で、特に動画は、できるだけEPUB3の枠内で実装した方が何かと便利なのですが、ユースケースによってはEPUBの枠に収まらない場合もあるかもしれません。その時は、近い将来にEPUBのバージョンアップで統合することを考慮しつつ、一時的にDAISY4のガイドラインでEPUBを拡張して利用者に提供することがあるかもしれません。具体的なコンテンツとして、文章単位で手話と同期するテキストを考えますと、テキストと音声をシンクロして表示再生するDAISYコンテンツに文章単位の手話ビデオを必要に応じて第二画面でシンクロして表示するということになりますが、その手話ビデオをテキストの代替手話と考えればビデオの画面解説や手話の音声化あるいは字幕化は必要ないので、実装はそれほど難しくないと思います。河村